社会福祉が充実し、国民の幸福度が世界一高いと言われるデンマーク。
現地への留学経験を持つミナガワさんによると、その背景にはデンマーク人の「幸せへの考え方」が影響しているそうです。
デンマークならではの文化と福祉、個人の尊厳を大事にする生き方について詳しく聞きました。
―ミナガワさん、まずは簡単な自己紹介をお願いします。
ミナガワさん:
現在、大学4年生のミナガワ キキと申します。2019年にデンマーク留学をして、8ヶ月ほど「フォルケホイスコーレ」という学校で学びました。
―デンマークに留学するきっかけは何だったのですか?
ミナガワさん:
私の祖母が外国人のホームステイの受け入れをしていたのですが、その中でデンマーク人の方と仲良くなり、長い間交流が続いていました。私もそのデンマーク人の男性とは海外の叔父のような感覚で交流があり、海外や英語に興味を持っていることを話したら「デンマークに遊びにおいで」と言ってくれて。
最初にデンマークへ留学したのは、高校3年生の夏でした。2週間滞在して、デンマークが大好きになったんです。それで大学生になったときに、もう一度行きたいと思って今度は長期滞在を決意しました。
―ミナガワさんがデンマークで通った「フォルケホイスコーレ」とは、どんな施設ですか?
ミナガワさん:
デンマーク国内に70ほどある教育施設で、17歳以上の人なら誰でも入学できます。大学に進学する前に専攻分野を見極めたい人や、別の職種にチャレンジしたい大人も学べる環境です。
校内の公用語が英語とデンマーク語の学校の2種類に分かれていて、デンマーク語が公用語の学校では基本的に9割以上がデンマーク人です。反対に、英語が公用語の学校は外国人が増える傾向が多いようです。
―なぜ「フォルケホイスコーレ」に行こうと思ったんですか?
ミナガワさん:
高校生の夏休みにデンマークで過ごした2週間が忘れられず、次は1年ほど留学して人生の時間を過ごしたいと思っていました。そんなときに知り合いでフォルケホイスコーレに行ったことのある方がいてお話を聞いたんです。
デンマークで長期滞在して、デンマーク人の実際の生活を知るためにはどうすればいいかを色々調べた結果として、フォルケホイスコーレを選びました。
―「フォルケホイスコーレ」ではどんなことを学びましたか?
ミナガワさん:
デンマーク語を学ぶのと、デンマークの福祉について学ぶのが主な内容でした。福祉領域で働いているデンマーク人が、どういう哲学をベースに福祉を提供しているかを学びました。
教わった先生は日本人だったのですが、その方は高校卒業後にデンマークに渡り、現地で大学を卒業したあと福祉の仕事に従事したそうです。現地で働いた経験をもとに、日本人に日本語でデンマークの福祉を伝えるコースを開講されていたので、受講しました。
―哲学と福祉とは、日本ではなかなかないテーマですね。
ミナガワさん:
福祉を提供する幼稚園の先生や介護職の方などが、「人間とは」というテーマに対してどう捉えているか、という観点から授業が始まります。これらはデンマークでは基本的なカリキュラムとして存在しているそうです。
デンマークでは、幼稚園・保育園の先生や子どもたちの生活支援を行う人、そして介護職などが「ペタゴー」という職業に分類されています。一つの資格をベースに、最終的に子ども専門・大人専門などと枝分かれしていくんですね。
この「ペタゴー」の資格を取るための大学の講義では、「何のためにこの仕事をするのか?」「人間のどういうところにアプローチするのか?」を学びます。一人ひとりの尊厳を大切にした介護や保育を行ううえで、しっかり思考のベースを持って接していくことが大事にされているようです。
―日本とデンマークの文化の違いを感じた瞬間はどんなときですか?
ミナガワさん:
デンマークでは、大人だけでなく子どもも個人がすごく大事にされていると感じました。例えば、お母さんが子どもにスーパーでチョコをねだられたとき、「あなたはなぜこれが欲しいの?」という対話が始まります。他にも、幼稚園の先生が学期の始めに「いいお友達の定義って何だと思う?」という話を子どもたちに噛み砕いて伝え、話し合いをさせるんです。
―子どもたちから意見を聞くというのは、とても素敵な取り組みですね!
ミナガワさん:
はい。子どもたち自身で「いいお友達とは」という定義を作る時間があるのには驚きました。日本だと、子どもにそれをさせるのは難しいと思う人が多いと思います。でも、4歳児には4歳児なりの言葉があって、その中でいい友達について考える時間を持つことができるはずという思考なんです。
お年寄りが暮らす施設では、自宅から家具を持ってくる方が多いそうです。部屋のインテリアはその人の個性が出るものですし、今までと環境を変えずに過ごすという視点から、個人のアイデンティティが大切にされているなと感じました。
―施設にお気に入りの家具を持っていけたら、確かにリラックスして過ごせそうです。
ミナガワさん:
デンマークは冬が長くて、朝9時に日が昇って夕方4時頃には真っ暗になってしまうんです。冬の時期は特に1日のほとんどを室内で過ごすので、家具など家の中の環境にはこだわっている人が多いと思いますね。それぞれが過ごしやすいスペースを工夫して作っているんだろうなと感じます。
―デンマークは消費税が25%で、所得税・住民税・医療付加税などをあわせると所得の50%を超える税金が課せられるそうですね。
ミナガワさん:
はい。でも税に対して不満を持つデンマーク人はすごく少ないと言われています。それは、払ったものがきちんと自分の生活に返ってくる実感があるからです。無料で医療を受けられる安心感や、フォルケホイスコーレも無料で受講するデンマーク人がとても多いです。
医療費、教育費、教材費は基本的に無料で、大学で研究している生徒は一定の条件を満たせば月に約10万円の生活費が国から支給されます。アルバイトに貴重な時間を費やすことなく、研究や勉学に集中するための配慮があります。
―働き方については、日本人との違いはありましたか?
ミナガワさん:
男女で働き方にそれほど差がないと感じました。電車の帰宅ラッシュの時間は夕方4時から5時で、中には2時半頃に「今日は幼稚園のお迎えがあるから帰ります」というお父さんもいました。
お母さんだけに負担がかかるのではなく、今日はお父さんの担当という日を作っている夫婦も多くて、そのあたりの男女の平等な意識が強いのかもと思いました。また、自分の生活がベースにあって仕事をしている人がすごく多くて、家族との時間を優先している考え方の人も多い印象を受けました。
―それを聞くと、働くことに対する意識がかなり違っているように感じます。
ミナガワさん:
そうですね。労働時間は短いのに1人当たりのGDPは日本より高いので、生産性がすごく高いんだと思います。そもそも、デンマークでは残業する人は仕事ができない人という感覚なので、残業しているから頑張っているという見られ方はなくて、時間内に仕事を終えられるように効率を第一にして働いているようです。
―色々とお話を伺っていると、デンマークの人は「個人の尊厳」を何より大事にしているんだなという印象です。
ミナガワさん:
本当にそうですね。デンマークが世界の幸せランキングで1位になったのも、そこから来ているんじゃないかと思います。個人の考え方や生き方が尊重され大切にされているからこそ、自分をどうやって幸せにするかということを一人ひとりがよくわかっている印象があります。
―そう感じた具体的なエピソードはありますか?
ミナガワさん:
フォルケホイスコーレは授業が午後3時半に終わったらずっと自由時間なんです。さらに授業は平日5日だけで土日は休みなので、週に何十時間も自由な時間があります。そうすると、「自分はこの時間で何をしたら幸せになれるんだろう」って、すごく考えるようになりました。
デンマーク人は「私はこれをやっているときが幸せ」という気持ちに従って時間を過ごすのがとても上手で、「私、雨の降る日にレインコートで散歩をするのが好きなの」と言っている子もいました。それを自分の幸せって言えるのはなんてすごいことなんだろう!って思ったのを覚えています。
―誰もが何かしら、自分を幸せにする方法を持っているってことですね。
ミナガワさん:
周りの人に対して「私はこれで幸せを感じるんだ」って言えること、そしてそれに対して時間を使えることが素敵だなって。それぞれが幸せの軸を持っていて、いつでも自分を幸せにする方法を実行できるからこそ幸福度ランキングが高いんだと思います。
職業選択も同じで、フォルケホイスコーレって10代で大学進学前に通っている子もいれば、30代や40代のキャリアがある方もいます。みんな流されてここにたどり着いたわけではなく、意図的な選択があって学んでいるんですね。
もともとはハイキャリアで専門的なお仕事をされていたのに、自由な時間が欲しくて転職を選択した人の例も聞きました。周りの目を気にしないで、自分がいいと思ったら自分の人生のために意図的な選択ができるって本当に素晴らしいなと思いました。
―デンマークでは、それぞれの人が幸せの軸をきちんと持っていて、それに従って時間を過ごし、将来の選択をしているというお話が印象に残りました。
次回はデンマーク人特有のライフスタイル「ヒュッゲ(Hygge)」の魅力と、日本でも実践できるヒュッゲな時間の過ごし方について伺います。